監修宅地建物取引士 松本 宗一(横浜不動産再生パートナーズ 代表取締役)
住宅ローンの返済が難しくなり、家を売ろうとしても、売れる価格よりローンの残りが多ければ、そのままでは売ることができません。不足分を用意できないときに検討される方法の一つが「任意売却」です。仕組みと流れ、売った後の暮らしの立て直しまでをまとめました。
任意売却とは
任意売却は、売却代金だけではローンを完済できない場合に、金融機関などの債権者の同意を得て抵当権を外してもらい、一般の市場で家を売る方法です。
01通常の売却
売却代金でローンを完済し、抵当権を外して買主へ引き渡します。
02任意売却
売ってもローンが残る場合に、債権者の同意を得て売却し、残った分の返し方を話し合います。
任意売却をしても、残ったローンがなくなるわけではありません。
返しきれなかった分は原則として残り、売却後の返し方を債権者と話し合います。
任意売却を検討できる主な条件
01売却代金で完済できない
売れる価格が、ローンの残りと売却の費用を下回っている状態です。
02不足分を用意できない
自己資金で不足分を補って、通常の売却をすることが難しい状態です。
03持ち主が売却に同意している
共有名義の場合は、原則として共有者全員の協力が必要です。
04債権者の同意を得られる
売却価格や費用の配分について、抵当権を持つ債権者との調整が必要です。
同意や協力が必要な人
抵当権や差押えを外せなければ、買主へ家を引き渡せません。登記の内容を確認し、関係する人を整理します。
- 金融機関・保証会社:抵当権を外すことと、売却の条件に同意してもらいます。
- 2番目以降の抵当権者:抵当権が複数ある場合は、それぞれとの調整が必要です。
- 差押えをしている人や役所:税金や管理費の滞納で差押えがある場合に調整します。
- 共有者:夫婦や親族と共有名義の場合は、原則として全員の同意が必要です。
- 連帯債務者・連帯保証人:売却後に残るローンにも関わるため、状況を共有します。
任意売却の一般的な流れ
STEP 01今の状況を確認
ローンの残りと届いた書類
STEP 02家の査定
売れる価格の目安を出します
STEP 03債権者へ申し出る
価格や条件を相談します
STEP 04売却活動・契約
債権者の承認を得て契約
STEP 05決済・引き渡し
抵当権が外れます
売出価格や値下げは、持ち主と不動産会社だけでは決められず、債権者が査定書や周辺の取引事例を見て判断します。親族や知人に売る場合も、価格や条件が適正かどうか慎重に確認されます。
売却代金から支払える費用
債権者が認めた範囲で、売却に必要な費用を売却代金から支払えることがあります。
01仲介手数料
不動産会社へ支払う、売却の仲介の報酬です。
02登記の費用
抵当権を外すために、司法書士へ支払う費用です。
03滞納している管理費など
マンションの場合、一定の範囲で支払いが認められることがあります。
04引越しの費用
事情に応じて、引越し費用の配分が認められる場合があります。
引越し費用は、受け取れるとは限りません。
認められる費用や金額は、債権者や状況によって異なるため、事前に確認が必要です。
競売が始まっている場合は、時間に注意
競売開始決定通知が届いた後でも任意売却はできますが、相談や売却活動をしているだけでは、競売の手続きは止まりません。債権者が競売の申立てを取り下げる必要があり、実務上は開札の前日までが一つの目安とされています。
債権者との調整や買主探しには時間がかかるため、通知が届いたら先送りせず、今どの段階にいるのかを確認しましょう。
売却後に残るローンについて
例えば、ローンの残りが3,000万円で、売却代金から返済できたのが2,400万円なら、単純計算で600万円が残ります。実際の金額は、利息や遅延損害金なども含めて債権者に確認します。
残った分は、収入や生活費、家族の状況を踏まえて、無理のない返し方を債権者と話し合います。返済が難しい場合は、提携する弁護士・司法書士をご紹介し、自己破産や個人再生なども含めて検討します。
リースバックを考えている場合
家を売った後、買主に家賃を払って住み続ける「リースバック」という方法もあります。ただし、任意売却と組み合わせられるとは限りません。
- 債権者の同意:売却価格が適正で、配分の条件が認められる必要があります。
- 家賃:売った後も払い続けられる金額か確認します。
- 契約の種類:普通借家か定期借家かで、更新や退去の条件が変わります。
- 買戻し:買い戻せるかどうか、価格や期限を確認します。
「家賃を払えばずっと住める」「必ず買い戻せる」とは限りません。
売買と賃貸の両方の契約内容を確認し、将来の家賃の負担や退去の条件まで考えておきましょう。
暮らしの立て直しまで考えます
任意売却の目的は、家を売ることだけではありません。売った後の住まい、家計、残ったローンまで含めて、新しい生活を安定させることが大切です。
01次の住まいを決める
家賃や初期費用、通勤・通学への影響を確認します。
02家計を見直す
売却後の収入と生活費から、無理のない支出を計算します。
03残ったローンを確認する
残る金額と返し方を、債権者へ確認します。
04専門家に相談する
返済が難しい場合は、弁護士・司法書士に債務整理を相談します。
相談のときにあると助かる資料
- 住宅ローンの返済予定表・残高証明書
- 金融機関や保証会社、裁判所から届いた書類
- 不動産の登記事項証明書
- 固定資産税の納税通知書
- マンションの場合は、管理費・修繕積立金が分かる資料
- 収入や生活費、ほかの借入れが分かる資料
すべて揃っていなくても大丈夫です。手元にある書類から、今の段階を一緒に確認します。
任意売却は、家を失うためだけの手続きではありません。
売却の条件、次の住まい、残ったローンの返し方まで一つずつ整理することで、生活を立て直すための選択肢になります。状況が進む前に、まずはご相談ください。
あわせて読みたい:競売開始決定通知が届いたら/住宅ローンが払えないとき、最初にやること